あいにく一日雨の中でも全国から痛車が集結
2023年3月26日の日曜日、「Yupiteru presents お台場痛車天国2023」が開催されました。通算5回目の開催で、1,000台あまりのアニメ柄の「痛い車」が全国から集まっています。
ちょうど東京都内の桜は満開の中ですが、お天気はあいにくの桜の花びらを散らす雨、しかも一日中本降りとなる春の嵐の中で、肌の露出が高いコスプレイヤーさんも震える寒さ(気温12℃)と最悪のコンディションでした。とてもとても、この雨の中では痛車とのコラボコスプレ撮影なんかはできる状況ではありません。
そんなお天気が悪い中でも、集まった車両のナンバーを見ますと東京近郊、関東近隣からの参加が圧倒的に多くはありますが、中には岡山や愛媛など西日本のナンバーもあり、全国から「痛車」が集まって来ていることが判ります。
集まった台数は1,000台規模と発表されており、大阪・万博公園の「痛車天国」の400台をはるかに上回り、お台場のイベントは国内最大となっています。
また、中にはヒュンダイやキアといった韓国車もあり、日本で韓国車に乗っているのは珍しいなと思いつつ、よ~く見ますとナンバープレートが韓国のもの。まさか、韓国から自走で参加しているとは、その熱量に驚くとともに日本のアニメが韓国でも流行っていることを象徴しています。
なぜ痛い車「痛車」と呼ばれているのか
今の時代、アニメやマンガ・ゲームなどは日本のカルチャー「Cool Japan」としてすでに十分に認知されているかとは思いますが、「痛車(イタシャ)」をご存知ない方のために説明をいたしますと、漫画やアニメ・ゲーム等のキャラクターなどをペイントやラッピングなどで装飾した乗用車を「痛車」と呼びます。
その昔、90年代まではアニメや漫画は、今ほどに市民権を得てはいなく「痛い趣味」とされていたことから、隠れてこっそりと観ているという趣味でもありました。その推しのキャラクターを、外を走る車に描き「好き」をアピールしてしまうことから、普通のアニメオタクよりもさらに「痛い」ということで「痛車(イタシャ)」と呼ばれています。
近年では、アニメや漫画などのオタク趣味は「痛い趣味」という要素は消え、老若男女で多くの人が楽しむ趣味へと変化、またジャパンカルチャーとして海外からも注目されているということもあり、屋外を走る車である以上は「こっそり」「ひっそり」というわけにもいかず、自虐的にも「痛車」と呼ぶようになっています。
「痛車」に対します認知度が上がってきますと、その目立つ姿からビジネスとしても注目を浴びるようになってきています。公共交通機関の電車やバスをアニメキャラクターでラッピングするなどして、聖地巡礼を促す地域振興や宣伝に利用するケースも目立ってきています。
どこに行けば痛車が見られるのか
「痛車天国」はお台場で2017年から3月末に毎年開催、2020年からの新型コロナ禍の3年間も屋外開催でもあったことから、負けずに開催を続けています。対する大阪・万博公園は秋に開催、「超痛車天国」がGWに開催されるニコニコ超会議へ乗り入れ開催を行なっており、これらの痛車を間近で見ることができます。
また、2月と7月開催のワンフェスでは、幕張メッセの駐車場でチラホラと痛車を見かけることができ、8月と12月開催のコミケの開催期間中には、有明の隣でもあるお台場の駐車場でもやはり多くの痛車を見かけることができます。
また、各地域のローカルでも小規模ながら痛車が集まるイベントが年間で40件ほど開催されています。近年は、新型コロナ禍の影響で中止も多くありましたが、屋外でのイベントが中心であることからも、イベントの復活とともに戻ってきつつあります。
こういった痛車のイベントは、コスプレイベントとの相性も良いことから、コスプレイベントとのセットで開催されることも珍しくありません。痛車天国のニコニコ超会議への乗り入れなどは、このパターンとなっています。
このように、まとまって痛車を見ることができるのは、こういったアニメ系のイベントがある時と場所ということになります。なかなか、普通に街中を走っていて痛車に遭遇することは、非常に珍しいとも言えます。
「痛車」というのは、走り屋仕様にチューニングされていることも珍しくなく、どちらかと言えば普段の足として使われるのではなく、イベント出展用として大切に扱われている車両が多い傾向にあります。これも普段、街中では見かけない理由でもあります。
痛車にはどんな車種が多い
痛車に装飾される車両は様々です。が、やはり車好きでもあるわけで一般的に人気の「GR86」や「インプレッサ」「スイフト」といったスポーティな車が多く好まれます。
それと同時に、80~90年代の「スカイライン」や「Z32フェアレディZ」「シルビア」「FC/FD RX-7」「RX-8」「マークII 3兄弟」「セド/グロ」といった旧車も多く見られます。ただし、「R32 GT-R」や「70/80スープラ」といった極端に高騰している旧車はその価格に手が出ないせいかほとんど見られません。(普通の人でも手が出ません)
輸入車の痛車もチラホラとは見かけますが、やはり台数は少なく旧車が中心で、新しいモデルはほとんど見かけません。
また、アルファードやハイエースといったワゴンモデルは、台数は少ないもののキャンバスとなる側面が広いことから、カラフルな痛車にしますと非常によく目立ちます。
他に多いのは、やはり軽自動車でお手頃な価格から人気のようです。軽自動車の痛車の場合には、日常の足として使用されていることも多く、多少控えめなラッピングとして、郊外の朝の通勤風景の中に見かけることもあります。
当然ですが、ここから外れたイレギュラーな痛車も存在するわけでして、ランボルギーニやフェラーリの痛車や最新のポルシェといったモデルでも見ることはあります。ただ、この場合には企業の宣伝が隠れていることも多く、IT企業の社長の車だったりドラッグストアの店舗前にいつも駐車していたりと、話題作りで目立つため取材を受けるケースが見られます。
少なくても、この「お台場痛車天国2023」の会場には、そういった宣伝色の強い痛車は参加していないようでした。
軒並み自動車ショーの集客が衰退している中で、こういったローカルな自動車関連のショーまたはフェスが新たに立ち上がり、新型コロナ禍にも関わらず5年以上も毎年続いているのは、なぜなのでしょうか。
今年2023年の「お台場痛車天国」では、あいにくの雨であったことから全体での来場者数はそれほど多くはなかったようでしたが、その中にはかなりの人数の外国人も混じっていました。新型コロナ禍による海外旅行に制限がかかる中では、外国人の姿は多い方ではないかと思われます。
また、韓国ナンバーのヒュンダイやキアの車が自走で参加していたことからも、痛車にかけるその熱量は相当なものであることが想像できます。
これには「モノ消費」「コト消費」に続き、今若者に広まっている「トキ(時)消費」があります。
対価の支払いが時代とともに「物」から「経験」へと推移してきましたが、「トキ消費」とは参加することで得られる体験や共感、コミュニケーションなどを思い出として共有されることに価値を求めています。
つまりは、車を買い痛車に仕上げるモノ消費に続き、痛車フェスに参加するコト消費、アニメや漫画・ゲームが好きな人が集まり作り上げた痛車を披露してコミュニケーションを取る、この限定された空間でしか味わえない独特な体験がその場にいるすべての人に共有されるのです。
これは痛車を持ち込み披露するオーナーだけでなく、その痛車を見に来場した人も一緒に楽しむことで体験を共有し合うことになり、新しいコミュニティを形成し共通の価値観を共有することになります。
現代社会では、大量生産により物が豊富で安く手に入るようになり、物質的な豊かさから得られる幸福感に限界を感じる人が増えています。
今の若者は、生まれた時から携帯電話がありインターネットが使える世の中で、世界中の情報や文化に触れることができ、それらを容易に体験できます。こうなってきますと、モノやサービスを所有することによっても多幸感は得られにくいことから、こういった痛車フェスを通じて「一瞬の盛り上がり」や「非日常的な体験」を、同じ趣味の人たちと共有することに目的の重きを置いています。
ですから、雨が降っても新型コロナ禍であっても、この場所に集まることに強い意味があるのです。
実際、車両の配置は「ウマ娘」「艦これ」「key作品」などのように同系列でまとめられていることから、隣近所の痛車は同じ趣味の人たちとなり、会話にも弾みが生まれます。